「分割して統治せよ」
これはローマ帝国が蛮族を統治する際に用いた方法です。
相手を分裂させ相互に対立するように仕向ければ相手を弱体化させることができ、支配が容易になるからです。
中国の兵法書でも、謀略を用いて敵を分裂させるのは定石の一つです。
敵を内部で対立させれば、敵同士を争い合わせて弱ったところを攻め取ることができますし、時には内部抗争に破れた側が投降してくることにより自軍の戦力を強化できることもあるからです。
相手の内部に対立を植え付ける分断策は敵を弱体化させるための古来よりの定石であり、現代でも有効な手段です。
謀略の有り無しに関わらず、このような分裂がどのような結果を生むかは歴史が示しています。
第二次世界大戦においては、日本では陸海軍が、ドイツでは陸海空軍と秘密警察が、戦争という国家の一大事の最中にも関わらず相互に対立しました。そして、それぞれ独自に情報収集や開発を行い、情報にしても開発にしてもほとんど共有することなく、それどころか、ときには互いに妨害することさえしました。
そして、その結果の無駄な労力の消費は戦況をより悲惨なものに変えてしまいました。
特にドイツは米英と比較しても優れた開発能力を持ちながら、それを有効に活かせずに敗北してしまいました。
日本にしてもドイツにしても、内部で対立せず、情報収集の結果を共有し、競合する開発に関しては、統合するなり、有望でない方を廃止するなりして開発資源の浪費を避け、相互の連携を強化して戦えば、もっとマシな戦い方ができたでしょうし、負けるにしてもより有利な講和条約を結べたかもしれません。
大局的に同じ目的を持つもの同士が対立することは、敵に利するだけでなく、様々な形の「資源(人的資源、情報資源、開発資源、他)」の浪費につながり、結果として組織の弱体化に繋がります。
組織内部で、対立感情から「なんで自分が苦労して集めた情報を共有しなくてはならないんだ」とか「自分の任務だけこなせばいい。他のことは知らない」といった偏狭なセクショナリズムに陥ることは、虚しいだけでなく、必要の無い作業の重複を生み、無駄な労力の消費に繋がります。
常日頃から相互協力に努めれば、そのような労力の無駄を避けることができ、その分をより生産的な活動に向けることができます。
分断策の代表的な手法に「偽情報の流布」、「対立を煽動する者を送り込むこと」、「対立を生む事件を起こすこと」があります。
それらへの対策ですが、「偽情報の流布」に関しては、如何にそれらしい情報であろうとも情報の確かさを検証する姿勢を持つことでかなり防ぐことができます。「情報の質」というものに留意し、惑わされて疑心暗鬼に陥らないことが肝要です。
「対立を煽動する者を送り込むこと」への対応の基本は、組織内部の人間、一人一人の心がけです。
間者は簡単に間者と見抜かれるようなことは普通しませんから、立証する証拠を入手できない限り、現代社会では排除は困難です。それに対立を煽動している人自体が、煽動された「無自覚な協力者」の可能性もあります。
内部対立を防ぐ普遍的に有効な手段。それは組織の一人一人が「同じ目的を持つものが対立することの不毛さ」、「大局的な目標に向かって一致団結することの有効性」を認識することです。
意識教育や日常での対話や積極的な相互協力がその手段となります。
対立を煽動する人や煽動に乗ってしまった人に対しては、それを諌め、それ以上の対立を生まないようにすることや、その手の煽動自体が如何に不毛なことかを説いて煽動をやり難い環境を作ることも重要です。
「対立を生む事件を起こすこと」(事件には小は書類の紛失から大は破壊工作まで様々な種類があります)に関しては、事件への対処に最善を尽くし、責任の擦り合いに関しては、これを諌め、可能な限り速やかに問題の解決を図ることです。
解決に当たっては「事件のために対立感情を持つことが一番の損失」ということを認識し、必要以上に反目しないことが求められます。
原因の追求も重要です。可能ならば、問題点を明らかにして対策をとり、再発を防ぐ必要があります。ここで重要なのは、優先すべきは個人の責任追及ではなく、根本的な原因潰しであること。二度と同じような事態がおこらないようにすることが最優先です。
分断策は謀略の手段であり、謀略は仕掛ける方が悪いのはもちろんのことですが、仕掛けられる方の体制次第で防御可能なものです。
「内部の分裂の結果、外敵に敗北する」といった悲劇を繰り返さないために、一人一人の人間が内部対立の虚しさについて知り、その解決方法を模索することを強く望みます。