塗装における基礎知識

塗料の種類と性質

 模型に使用される一般的な塗料は以下の三種類です。

ラッカー塗料
 ラッカー系アクリル樹脂塗料(アクリルラッカー)。ここでさすラッカー塗料はプラスチックをほとんど溶かさない模型用のものです。
 乾燥が速く、塗膜も強いのですが、溶剤が強いので他の種類の塗料の上への重ね塗りには向きません。
 薄めたり、用いた器具を洗うには専用の溶剤が必要。
 グンゼのMr.カラー、モデラーズのモデラーズカラー等。
アクリル塗料
 水溶性アクリル樹脂塗料。水溶性なので、乾かない内なら塗装に用いた器具を水で洗うことができます。乾くと耐水性になります。
 希釈は水でも行えますが、乾燥速度や塗装面への食いつきに悪影響がでるため、専用の溶剤で行った方がいいでしょう。
 発色は鮮やかですが、ものによっては顔料の粗さが気になることがあります。
 筆伸びが良く、筆塗りに向いています。
 ラッカー塗料、エナメル塗料の塗膜をほとんど溶かさないので、上に塗った際、失敗してもアクリル溶剤で拭き取ってやりなおすことができます。
 タミヤのアクリルカラー、グンゼの水性ホビーカラー等。
 水性ホビーカラーには専用の溶剤がありません(今では発売されています)が、タミヤのアクリルシンナーで薄めても問題ありません。
エナメル塗料
 油性エナメル塗料。
 乾燥は遅いものの、顔料の粒子は細かく、特に金属色の光沢は秀逸です。
 薄めたり用いた器具を洗うには専用の溶剤が必要。
 エナメル塗料は溶剤の乾燥後(揮発乾燥後)、長い時間をかけて空気中の酸素と反応することで完全硬化し(酸化重合乾燥)、完全硬化後は溶剤で溶かすことはできなくなります。
 ラッカー塗料、アクリル塗料の塗膜をほとんど溶かさないので、上に塗った際、揮発乾燥後でも酸化重合乾燥前であれば、失敗してもエナメル溶剤で拭き取ってやりなおすことができます。
 その性質を利用して、よく墨入れやウェザリングに用いられます。
 ただし、その溶剤はプラスチックに浸透してもろくする性質が強いので、薄めたものを塗りすぎるとパーツの破損という事態を招くことがあります。
 タミヤのエナメルカラー等。
 完全硬化後は溶剤で溶かせなくなるという性質上、(完全硬化前に保存容器から揮発した分の溶剤の継ぎ足しを行う必要があるため)長期保存には向きませんので、購入は必要最小限の数に抑えた方が良いでしょう。

湿度が高い際の塗膜への影響

非水溶性塗料
 塗膜のつやが消えたり白く曇ったりという、いわゆる「かぶり」状態になりやすくなります。
水溶性塗料
 乾燥が遅れて変につやがでたり、べとついたりすることがあります。

塗料の塗り重ねの相関表

塗り重ね相関上塗り
ラッカーアクリルエナメル
下塗りラッカー
アクリル×
エナメル×

 表において、×は下地の塗料を溶かしてしまうので重ね塗りできないこと、△は同系統の溶剤なので素早く塗らないと下地の塗料を溶かしてしまうこと、○は重ね塗りが可能だが僅かに下地の塗料を侵食してしまうこと、◎は重ね塗りが可能で下地を侵さないことを表わしています。

 以上は一般的な塗料の塗り重ねの相関表です。下地を侵さないということは、対応する溶剤を使って上に塗った塗料だけを拭き取ることが可能ということ。つまり失敗した場合に拭き取ってやりなおしができることを意味します。
 他にも、この性質を利用すればかなり細かい部分でも、塗装のはみだした部分だけを拭き取ることにより綺麗に塗り分けることが可能となります。

おっさん「塗料の種類と性質はだいたい以上の通りだが、だからといってエナメル塗料やアクリル塗料の上にラッカー塗料が重ね塗りできないというわけではないぞ」
モエたん「ええ〜〜〜っ!でも一般的にはやってはいけないっていわれてるじゃない!!」
おっさん「温いな。確かに筆塗りでは難しいがスプレーやエアブラシなら簡単にできる。塗装してすぐ乾くように塗装すればまったく問題ない。ただし失敗した場合、下地の塗料が溶け出して塗装をやり直さなくてはならなくなるというリスクは負うがな」
モエたん「あまり初心者にはお勧めできないわね」
おっさん「確かに。すぐに乾くように薄く吹くことができる技術がないとやるべきではない。ただこれができるとアクリル塗料などで塗装した上にラッカー塗料でトップコートを塗装でき、これにより他の種類の塗料の、ラッカー塗料に比べて塗膜が弱いという弱点を克服できる。エナメル塗料で墨入れやウェザリングを行う際の保護措置としても有効だ」

塗膜の厚さとスケール感

「モエたん、実物の塗膜が1ミリの場合、それを72分の1で再現すると塗膜の厚さはどれくらいになる?」
「72分の1ミリ!」
「では塗膜を72分の1ミリ程度に塗装することはできる?」
「無理〜〜〜。少なくとも私には」
「うむ。私にも無理だ。だが塗膜は薄くした方が良いとは教えたね。その理由は言えるかな?」
「『塗膜が厚くなると、その厚ぼったさからスケール感を失い、また繊細なモールドは埋めてしまいかねない』から?」
「概ねその通り。厚い塗膜は模型をいかにも玩具っぽくしてしまうからね。玩具を玩具に見せないというのがモデラーの技術というもの。そのためには透けない下地、薄い塗膜が大切ということ。しかし、これは何だい…。何という厚ぼったい塗膜…」
「世に流行の『黒立ち上げのMAX塗り』というものをやってみたの。でも、上塗りの塗料がなかなか発色しなくて。」
「隠蔽力の低い塗料を暗い色の上に直に塗るから…。隠蔽力の低い塗料でこういう濃いグラデーションをかけるときは明るいグレーや白などで段階的に下地を作ってから上塗りを塗装した方がいい。その方がトータルでの塗膜を薄くして、なおかつ鮮やかに発色させることが可能になるから。世にいうところの『白立ち上げのMAX塗り』に近いかな。もともとああいう塗装法はクリアカラー専用というわけではない」

 塗装には僅かながらですが、傷やモールドを埋めてしまう効果があります。
 そのため塗料をあまり厚く塗ると、エッジが甘くなったりモールドが埋まったりして、模型の仕上がりは全体的に「だるく」なってしまいます。
 いわゆる「ソリッドでシャープ」な仕上がりを得るためには、塗膜はできるだけ薄い方が望ましいのです。サーフェーサーに対しても同じことがいえます。
 また塗膜が厚くなると、塗料の乾燥にも時間がかかることになります。
 これは特に水溶性アクリル塗料で顕著で、厚く塗ると塗料の表面だけ乾いて内側はずっと生乾きのままという事態が発生することがあります。
 塗装した水性塗料が乾かないというトラブルの原因は大抵これです。
 塗装の基本は薄塗り。発色しない場合は薄塗りを複数回繰り返すこと。その方がトータルの乾燥時間を短縮できます。
 塗膜を薄くするということは他にも塗料の節約、ペイントダストの低減等のメリットがあるので、薄く塗って鮮やかな発色をさせる技術の探求は模型作りにおいてかなり有意義でしょう。

厚く塗ることのデメリット

 厚く塗ることには他にもこんなデメリットがあります。

  • マスキングした際の段差が大きくなり、且つマスキングテープを剥す際に境目の塗膜を痛めやすくなります。
  • 塗料の顔料や溶剤の違いによる乾燥時の収縮率の違いにより、塗膜がひび割れてしまうことがあります。

隠蔽力の低い塗料とその発色

 まず、私達が見ている色というものは物体に反射した光であるという基本的なことを前提におきましょう。
 塗装について考える上で、その光を大きく二種類に分けます。
 塗膜表面に反射した光と、塗膜を透過して下地に反射してさらに塗膜を透過してきた光です。
 隠蔽力の高い塗料の場合はほとんどが前者で、隠蔽力が低い(=透過率が高い)塗料の場合はほとんどが後者です。
 隠蔽力が高い塗料は下地の影響をほとんど受けず、それ自体で発色し、隠蔽力の低い塗料は下地の反射により発色し下地の色の影響を強く受けるということです。(例:黄色い下地の上にクリアレッドを吹くと発色はオレンジになる)
 また、極端に隠蔽力の低い塗料(クリアカラーや一部の自動車特色等)は塗り重ねると色セロハンを重ねるのと同じ原理で色が暗くなってしまいます。これは塗膜が厚くなることで塗膜を透過して反射する光が減ってしまうからです。
 クリアカラーによるシャドー吹きというものは、この塗膜の厚さによって色が暗くなるという性質を利用したものです
 原理的には、隠蔽力の低い塗料は暗い色の上に塗るといくら塗り重ねてもほとんど発色しないことになります。
 というわけで、隠蔽力の低い塗料で鮮やかな発色を得るためには綺麗な白い下地の上に適量を塗装することが必要というわけです。

  • 塗装の際は、隠蔽力と下地の色の関係を把握して、塗装による発色を感覚的に計算することが重要。
  • 可能な限り薄い塗膜で鮮やかな発色を心がける。
  • 隠蔽力が低い塗料を綺麗に発色させるには厚く塗るより、綺麗な白い下地。
  • 一度に塗料を塗り過ぎて下地を溶かし、塗装面がまだらになってしまっては元も子もない。

混色と隠蔽力

 塗料の種類は、クリアカラーや蛍光カラーなどの染料系塗料と、その他の不透明顔料系塗料に大きくわけられます。
 染料系塗料は混色により色味を変化させることはできますが(クリアレッド+クリアブルー=クリアパープル)、透けるのでいくら混色しても下地の色の影響をさけることはできません。
 それに対して、不透明顔料系塗料は基本的に混色すればするほど隠蔽力が高くなります。
 特に様々な色が混じりあった特色系のグレーは例え明るい色でも非常に高い隠蔽力を発揮します。
 この性質は赤、青、黄といった原色系の隠蔽力が低い塗料を、薄い塗膜で鮮やかに発色させることに使うことができます。
 例えば、不均一な色の下地に隠蔽力が低い色を塗装する場合、目的の色をそのまま塗るといくら厚く塗っても均一の色にならない場合があります。
 それに対して、隠蔽力が高い明るいグレー、その上に白と塗装して下地を作り、目的の色を塗装した場合、薄い塗膜で均一な色に塗ることができます。

混色と隠蔽力の補足

 発色原理と経験則に基づく色と隠蔽力の関係を表にまとめます。

隠蔽力
極めて低いクリアカラー、スーパーイタリアンレッドなど一部の自動車特色
低い赤・青・黄といった原色、白(隠蔽力は顔料の種類によって大きく変わりますが、比較としてこの位地に)
普通原色混合色(オレンジ・紫・緑)、ピンク・スカイブルーのような原色に白を混ぜた色
高い黒、原色混合色(オレンジ・紫・緑)に白を混ぜた色
極めて高い灰白色、ジャーマングレー、ネービーブルー、暗緑色のように複数顔料の混じった無彩色や低彩度色

 混色には以下の法則が成り立ちます。

  • 異なる色を混ぜれば混ぜるほど隠蔽力は高くなるが、彩度は低くなる。
  • 白はそれ自体の隠蔽力は(大抵)低いが、他の色と混ぜると隠蔽力を大幅に引き上げることができる。

 混色により彩度が低くなるのは、色の彩度成分が相殺していくためです。
 例えば、色相環で反対の位地にある色である補色どうし、例えば緑と赤、を混ぜると彩度は完全に相殺され黒になります。
 この辺の混色と明度と彩度という発色の関係は美術関係の教本を見た方が詳しいでしょう。

 経験則としてはよく知られていることですが、何故白を混ぜると塗料の隠蔽力が高くなるのでしょうか?
 私の推測ですが、それは白がもっとも可視光を反射する色だからです。
 塗料に含まれる白の顔料が光を散乱し透過率を大幅に引き下げ、結果、大幅に隠蔽力が上がることになるというわけです。
 透明なガラスとすりガラスの違いと表現するのが適切な例えでしょうか。
 このような推測はさておき、白を混ぜると隠蔽力が高くなるということ自体は知っておくと混色の際に役立つ知識です。

顔料の粒の大きさと光沢とつや消しと塗料のにじみ

 塗料の顔料の粒子の大きさは塗膜の光沢に大きな影響を与えます。
 基本的に粒子が小さい程、塗装面はなめらかになるため光りの反射かそろい美しい光沢となります。
 クリアを塗料に混ぜたりトップコートとして吹きつけると光沢がでるのは、クリアの細かい粒子が塗装面の凸凹を埋めて塗装面をなだらかにするからです。
 対して粒子が大きい程、塗装面は凸凹になり、塗装面にあたった光は散乱され光沢は消えます。
 フラットベースとはその大きな粒子で塗装面を凸凹にするための添加剤です。
 また乾燥時間が長いと、その分表面がなだらかになりやすくなります。ですから乾燥時間を遅らせるリターダーを混ぜると光沢がでやすくなります。(余談ですがGSIクレオスのレベリング薄め液は乾燥時間を引き伸ばすことで光沢をだす溶剤です。)
 基本的に美しい光沢をだすためには、顔料の粒子が細かいほどいいわけですが、粒子の細かい顔料にはある問題があります。
 それは「にじみ」
 粒子の細かい顔料は、下塗りの塗装面が荒れていたり塗料の粒子が大きいと、そこにできる隙間に移行してしまい、結果、塗装の境目がにじんでしまうことがあるのです。
 特にクリアカラーや蛍光色などの染料系塗料はその性質上にじみやすい傾向にあります。

付記:塗料の種類による顔料の粒子の大きさと隠蔽力

 顔料の粒子の大きさですが、同じ色でも塗料の種類によって顔料の大きさは違ったりします。全体的な傾向として、水溶性塗料の顔料の粒子は大きい傾向にあるようです。この辺りは金属色を見ればよくわかります。
 顔料の粒子の大きさは隠蔽力にも影響するようで、粒子が大きいほど隠蔽力が高くなるようです。
 グンゼのベースホワイトは顔料の粒子が大きいため白にもかかわらず隠蔽力が高く(というより、あれはサーフェーサーですね)、同じくスーパーブラックは顔料の粒子が小さいため黒なのに隠蔽力が低いといった具合に。

 ↑実際には粒子が小さく塗装面を密に覆うほど隠蔽力は高くなるとのことです。

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