AFV模型における黒立ち上げ塗装

技術論としての黒立ち上げ塗装

 黒立ち上げ塗装がAFVモデラー由来であることは、ある程度年季の入った模型者にはよく知られたことです。
 この塗装法はAFVモデラーの塗装技術研究の成果なのです。

 技術の向上にはどのようにすれば良いでしょうか?
 人の真似をすれば、研究する苦労なしに真似した相手と同じ程度の技術を得ることはできます。
 そういう意味では模倣は立派な技術獲得手段です。
 しかし、人真似だけではそれ以上の技術の向上は望めません。
 さらなる技術の向上には「新技術の探求」や「既存技術の改良」など頭を使って研究する必要があります。

 そうした技術向上の一つの形として「効率の向上」があります。「より少ない手間で同じ効果を得る」、「同じくらいの手間でより大きな効果を得る」、「より少ない手間でより大きな効果を得る」というのも、地味ですが立派な技術の向上です。
 そして「一つの作業に複数の意味を持たせること」は「効率の向上」の有効な手段です。
 AFV模型における黒立ち上げ塗装も、そうした一つの作業に複数の意味を持たせることで手間を省きつつ効果的な表現を行う技術の一つです。

 通常、鮮やかな発色を得るためには白い下地がいいというのは塗装の常識です。
 では何故、黒立ち上げ塗装では下地に黒に塗ってしまうのでしょうか?
 以下に下地の黒塗装の意味を列記します。

 このように一つの作業で複数の目的を達成できるメリットが、下地が白でないデメリットを上回るゆえに黒立ち上げ塗装では下地を黒く塗るのです。
 それには、AFV塗装に用いる塗料の殆どが白を下地にする必要が無いほど強力な隠蔽力を持ち、下地が白で無い際のデメリットが少ないことも背景にあります。

実際の塗装

全て組んでしまう  一部のパーツを除き全て組んでしまってからサーフェイサーを吹いた画像。
 人にもよりますが、AFVの場合、パーツの塗装色が違う場合でも塗装後に組むようなことはせず、全て接着して組み上げてしまいます。
 主な理由は、塗装したパーツ同士を綺麗に強固に接着することが難しいからです。
 塗装したパーツ同士の接着はパーツに塗られた塗料を貼り合わせるような感じになり、接着強度が下がりがちです。
 場合によっては接着したパーツが塗膜ごと剥がれることもあります。
 接着部分の塗膜を剥がして接着すれば、そのようなことは避けられますが、細かいパーツを含めてそのような作業を行うことは非常に手間がかかるので、塗装前に接着してから塗り分けたほうが効率がいいのです。
 (副次的な理由として、細かいパーツを管理するのは大変ということがあります)
 もちろん、塗装してから組むのも自由ですし、接着不要のスナップフィットのAFVモデルが出れば、このような事情も変わるかもしれません。

上面は回転台を使うと楽  次に黒く塗装します。  陰の部分の塗装を兼ねているので奥まった部分までしっかり塗装します。
 回転砲塔を積んだAFVで砲塔と車体を分けて持ち手を付けて塗装する場合、作業の段取り上、先に車体の上面を塗装した方が効率が良いです。
 順番としては、「持ち手を付けずに車体上面を塗装→持ち手を付けて砲塔を塗装→持ち手を付けて車体下面を塗装」
 車体上面を塗装する際は回転台の上に乗せて回転させながら行うと、吹きむらや吹き残しを発見しやすく作業性が向上します。
 画像は車体をケーキ用の回転台に乗せて塗装している様子。

全て黒く塗る  全体を黒く塗装した画像。

黒で残す部分を吹き残して塗装  黒立ち上げ塗装でまずジャーマングレーを塗装し、その上にジャーマングレーとニュートラルグレーを混色した色を塗装した画像。
 「陰になる部分」、「汚れで黒ずみやすい部分」、「キャタピラや機銃等の金属部分」、「転輪のゴム部分」といった部分の黒を吹き残しつつ塗装します。
 塗り分けは、マスキングをすると手間がかかるので、フリーハンドで。
 エアブラシは慣れれば吹き付け角と吹き付け量のコントロールでコンマ数ミリ単位で塗り分けが可能です。(コンマ数ミリ単位の線が描けるという意味ではありません)
 はみ出させずに塗装するのが望ましいですが、はみ出ても筆なりエアブラシなりで修正すれば良いだけですので、気にせずに作業をします。
 目的の色より明るい色で塗装しているのは、この後にウォッシングを行うからです。
 イメージとしては、黒立ち上げで目的の色より一段階明るい色を塗装し、ウォッシングで一段階暗くすることで、目的の色を塗装するといった感じです。

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