痛スマホ(スマートフォン)カバーを作る方法としては透明なスマホカバーの下に絵を挟み込む方法とスマホカバーの上にデカールやシールなどを貼る方法がありますが、その後者の方法についての記事です。
頼まれ物でデカールを貼って研ぎ出しして痛スマホカバーを製作したのでその過程を紹介します。
スマホカバーにデカールを貼っただけでは日常生活での擦れによりデカールはすぐに傷んでしまいます。それを軽減するためには貼ったデカールの上に保護皮膜を作る必要があります。
今回は光沢仕上げも兼ねてデカールの上にクリアを塗装することで保護皮膜を作ることにしました。
しかし、素材として購入した黒いスマホカバーはポリカーボネート製なので、そのままでは通常の模型用クリア塗料は使用できません。仮に使用した場合、クリア層が簡単に剥がれてしまうことになります。(ポリカーボネートカラーなどポリカーボネートに対応している塗料は除く)
そこで、まずはポリカーボネートに対応したプライマーを塗装することでクリア吹きのための下地を作り、その上にクリアを吹くことでデカールを貼るための下地を作ります。
使用したのは東日本塗料のスーパーエクセルプライマー。ポリカーボネートにも強固に密着することから今回はこれを使用しましたが、染めQテクノロジィのミッチャクロンマルチなど他のポリカーボネートにも密着するプライマーでも大丈夫でしょう。
こういうプライマーにはトルエンやキシレンといった毒性の強い有機溶剤が成分に含まれているため、使用する際は有機ガス用防毒マスクなど適切な防護具を着用する必要があります。
まずスマホカバーを脱脂のために中性洗剤で洗い、乾燥後にプライマーを塗装し、常温で20分ほど乾燥させた後に模型用クリア塗料(今回使用したのはガイアカラーのEXクリア)で塗装しました。
プライマーを吹きつける際、プライマーの揮発成分に浸食されてのポリカーボネートの痛みを低減するため、ある程度の距離をとって砂吹き気味に吹きつけたので塗装面がかなり波打っています。
画像下側に写っているスプレー缶は塗装時の持ち手に使用したもので、キャップに両面テープを貼ってスマホカバーを固定しています。
塗装面が波打ったままでは美しい仕上がりを得られないので、デカールを貼る前に中研ぎを行い塗装面を平滑にします。
塗装面が十分に硬化するまで時間を置いた後に、まず1000番相当のスポンジやすりで磨いておおまかに塗装面を平滑にし、次に1500番相当のスポンジやすりで磨くことでコンパウンドで磨く下準備をします。
今回は山善の食器乾燥機をドライブースとして使用して2日程乾燥させました。常温であればもう少し時間を置いた方がいいでしょう。
画像は中研ぎ途中の画像で、画像左側がスポンジやすりで磨き終わった部分、画像右側が磨き途中の部分です。
スポンジやすりで磨くことで波打った塗装面を平坦にし終えた状態。
別に耐水ペーパーなどの紙やすりで磨いてもいいのですが、曲面部分についてはスポンジやすりの方が角を出しにくいと思います。(「角を出す」とは角の部分など研磨の際に削れやすい部分の上塗りを削りすぎて下地を出してしまうこと)
スポンジやすりでの研磨にはスピンやすりを用いました。
スピンやすりとは電動歯ブラシであるスピンブラシを改造した研磨ツールの呼び名で、今回使用したのはスピンブラシプロを改造したもの。先端を前後往復運動部分を残して切り取り、往復運動部分の毛を抜いた上で両面テープでスポンジやすりの切れ端を固定して使用しています。
別に手磨きでも構わないのですが、この手の研磨はこういう道具を使用した方が大幅に時間を短縮できます。
やすりがけ終了後のスマホカバーをコンパウンドで磨いた後の状態。
やすりがけにより表面が荒れた状態でデカールを貼るとシルバリング(下地の影響でデカールが密着しないことによりデカールのニス透明部分が白く曇る現象のこと)しかねないので、そうならない程度に磨いておきました。
使用したコンパウンドは3Mのカット・1-L(細目)のみで、それでもシルバリングしない程度には研磨できます。
デカール貼りとクリア吹きを終えた後の状態。
使用したデカールはGSRの「デカール026/Racingミク 2011ver.」
面積の広いデカールを使用したのでデカールの乾燥に山善の食器乾燥機で3日かけ、研ぎ出しのためのクリア吹きの乾燥にも山善の食器乾燥機で3日かけました。常温であればいずれも1週間程度の時間をとった方がいいでしょう。
クリア吹きは研ぎ出しを行うので厚めにしてあり、特に角の部分は数度の塗り重ねにより厚くしてあります。
この状態ではデカールの厚みの分、塗装面に段差があり、それは特に重ね貼りした個所の光沢に顕著に表れています。
デカールの厚みの分の段差がある塗装面をやすりがけにより平坦にした状態。
スポンジやすりでは曲面に馴染み過ぎて塗装面の段差を削りとるのには向かないので、まずは1000番の耐水ペーパーを1mm厚スポンジ両面テープで貼ったスピンやすりで水研ぎして大まかに段差を削り取り、その上でコンパウンドがけの準備として1500番相当のスポンジやすりで磨きました。
塗装面をコンパウンドで磨き終えた状態。
コンパウンド磨きにはモーターツール用コットンバフをポンチで打ち抜いたものをスピンやすりに取り付けたものを使用しています。(「優れもの紹介-スピンやすりPRO」で使い方を説明しています)
別にぼろ布などでの手磨きでもいいのですがスピンやすりを使用した方が圧倒的に短時間で仕上がります。また、コットンバフは布に比べてコンパウンドを吸わないこととスピンやすりで使用するコットンバフは小面積であることからコンパウンドの消費量自体も少なくて済みます。
コンパウンドは3Mのカット・1-L(細目)、ハード・1-L(極細目)、ハード・2-L(超微粒子)を使用しました。
研磨剤としての切れ味に優れたコンパウンドで、1500番程度の紙やすりで磨いた塗装面を短い時間で鏡面に研磨できます。細目、極細目、超微粒子という順番で使っていくのですが、極細目の段階でいい光沢が出るので、それ以上の光沢を求めないなら超微粒子のものはいらないと思います。
性能的にはお勧めのコンパウンドなのですが、750mlという量の多さとその量に伴う価格的には万人に勧められるようなものではありません。カー用品店などで売っているHoltsのリキッドコンパウンドミニセットでも十分に鏡面に磨くことはできますし、価格も手頃ですので、個人が模型などに使う分にはそちらの方がお勧めです。
研磨において使用するコンパウンドの種類を変えるときの注意点ですが、綺麗に磨くには前に使用したコンパウンドはきっちり洗い落とし、磨くのに使う布やバフも変える必要があります。目の粗いコンパウンドの粒子が残っている状態で、目の細かいコンパウンドで磨いても、目の粗いコンパウンドの粒子が磨き傷を作り続けるので、いつまで磨いても使用するコンパウンドに見合った光沢を得ることはできませんから。
完成画像はこちら。→「痛スマホカバー Racingミク 2011Ver.」
クリア塗装で保護してあるとはいえ、使用している内にクリア層が擦れて剥げていくことは避けられませんから、デカールを貼って研ぎ出しした痛スマホカバーは使用状況によってはあまり長持ちしないと思います。
プライマーの変色については仮に発生しても使用したものの色が黒なのであまり目立たないとは思いますが。