第三回 コーナリングの五つの区間

 車を曲げるための操作は一連の流れから成り立っています。
 その際の操作の役割というものは無段階になめらかに変わっていくもので、明確な線引きは難しいものですが、今回は、次回以降の用語の定義のために、それを大雑把に五つにわけて解説します。 

 以下の図はアウトインアウトのラインを描いて曲がる車の軌跡を描いたものです。
 車は図の左下側から走ってきたものとします。

アウトインアウト

A区間(減速区間)

 コーナーの手前で直線的に減速する区間です。
 ロック寸前のフルブレーキングを行い、タイヤの性能の全てを減速のために割り当てている状態です。
 タイヤの性能を車を曲げることに使用しない(できない)ので、当然、ステアリング位置はニュートラルです。
 この区間のブレーキングの意味は、「コーナーを曲がれる最高速度まで車速をおとすこと」です。

B区間(ターンイン区間)

 コーナーを曲がるために車の向きを変えはじめる区間です。
 ブレーキを徐々に緩めて、タイヤの性能の一部を車を曲げることに使えるようにしながら、徐々にステアリングを切り込んでいきます。(「ブレーキを残しながら」曲がる区間)
 この区間では、減速Gによるフロント荷重の増加により、車を曲げやすくなっています。
 この区間のブレーキングには「効率よく車を曲げるためにフロント荷重にする」意味もあります。

 第二回でのドリフトの姿勢を作るのもこの区間です。
 A区間からこの区間における減速Gにより、車のリア荷重は抜け、後輪は滑りやすい状態になっています。タイヤの性能の限界近くで走っているのなら、ちょっとしたステアリング操作をきっかけに後輪は滑り出し、ドリフトの姿勢を作ることができます。
 後輪が滑り出したら、そのスライド量にあわせてステアリングの操作角を調整します。
 同時にアクセルを操作して、加速Gでリアに荷重を移し、車を安定させるようにします。

 この区間においては「減速手段としてのドリフト」であるドリフト角の深いドリフトも有効です。
 それはこの区間が「広い意味での減速区間」であるからです。

C区間(パーシャル区間)

 タイヤの性能の全てを車の進行方向を変えるために使用している区間です。
 この区間ではアクセル開度一定(パーシャルスロットル)、ステアリング操作角一定で、タイヤの性能を加速にも減速にも使用しません。
 もしB区間で「減速手段としてのドリフト」を使用したのなら、速いコーナリングをするためには、この区間の手前までに「速いドリフト」の姿勢にする必要があります。

 理論上はこの区間を長く取れば取るほど、コーナリングにかかる時間は短くなります。実際はステアリングの切り込み、切り戻しの区間が存在するので、不可能ですが。
 この区間での車の軌跡は理論上真円の一部を描きます。(限界速度での定常円旋回を考えるといいでしょう。)

 理論上最速のコーナリングには、この「タイヤの性能の全てを車の進行方向を変えるために使用している区間」が最低「点」としてでも存在します。

D区間(立ち上がり区間)

 ステアリングを徐々に切り戻しアクセルを徐々に開け、タイヤの性能の全てを加速に使用できるようにしていく区間です。

E区間(加速区間)

 コーナーを抜けた後、直線的に最大加速をする区間です。
 アクセルを可能な限り開けて、タイヤの性能の全てを加速のために使用します。

補足

 この図ではめいいっぱいアウトインアウトのラインを描いていますが、必ずしもこういうコーナリングが最速なわけではありません。
 車の速度がコーナリング限界速度(その車の性能で、あるコーナーを曲がれる最高速度のこと)を下回っている場合、インベタで曲がった方が走行距離を短くできる分タイムを短縮できますし、立ち上がり区間以降に長いストレートがある場合、コーナリング速度を落としても立ち上がりの速度を上げるようにした方が(スローインファーストアウト)、タイムを短縮できる場合があります。
 このようなラインの取り方については、次回以降に解説します。

ここの要点
  • 減速のためのブレーキングの意味は「コーナーを曲がれる最高速度まで車速をおとすこと」にある。
  • 曲がるためのブレーキングの意味は「効率よく車を曲げるためにフロント荷重にすること」にある。
  • 空力の影響の少ない車の場合、減速区間においての「減速手段としてのドリフト」によるタイムロスは少ない。
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