第五回 ドリフトのきっかけの種類
ここではドリフトのきっかけについて述べます。
大事なのは、これらのきっかけは「曲がるための手段」ではなく「曲がるための姿勢を作る手段」であるということ。
例えば車の限界を遥かに越えるような速度でコーナーに侵入した場合、これらのきっかけにより車の向きを変えることはできても、コーナーを曲がりきることはできません。
コーナーを曲がるためには、まず「曲がることができる速度までの減速」が必要です。
当然のことですが、車はタイヤを通して路面に力を伝えています。
で、タイヤの能力を越えた力を路面に伝えようとした場合、タイヤは路面にその力を伝えきれず、滑り出してしまいます。
ここではこの「路面に伝えようとする力」を「駆動力(トラクション)」とし、便宜的に「路面とタイヤの間の力の差」を「駆動力差」と呼びます。(本来は左右や前後ののタイヤの駆動力の差を表わす言葉です。)
ドリフトのきっかけのほとんどはタイヤの限界を越える駆動力差を発生させるものです。
減速側の駆動力差をきっかけにするものが、ブレーキング、サイドブレーキ、シフトロック。
加速側の駆動力差をきっかけにするものが、パワー、クラッチキック。
例外として、ステアリング操作をきっかけにするものがフェイントモーション、慣性のみをきっかけにするものが慣性(厳密にいえば、他のきっかけも慣性を利用している)、減速する際のデフの駆動力配分を利用するのがタックイン。
以下で、それらについての解説を行います。
- ブレーキング
- ブレーキを踏むことでリアの荷重を抜き後輪を滑らせます。
ただ、ブレーキを踏み過ぎて前輪をロックするとブレーキングアンダーで曲がらなくなってしまいます。
ブレーキバランスのコントロールが可能なら、後輪側のブレーキの効きを強くすることで、より後輪側を滑らせやすくすることが可能です。路面と後輪の間により大きな減速側の駆動力差を発生させることができるからです。 - サイドブレーキ
- サイドブレーキとは車を駐車させるときに使う手でレバーを引くタイプのブレーキのことです。
ほとんどの場合、後二輪をロックするようになっています。
これをを引くことにより、路面と後輪の間に減速側の駆動力差を発生させることができます。
後輪が駆動している車ではクラッチを切る必要があります(ゲームでは自動)。 - シフトロック
- 低いギアにシフトダウンすることで駆動輪に強くエンジンブレーキを効かせます。
これにより路面と駆動輪の間に大きな減速側の駆動力差を発生させて駆動輪を滑らせます。 - パワー
- アクセルを踏み込むことで、駆動輪に加速側の強い駆動力差を発生させることで駆動輪を滑らせます。
スライドを維持しつづけるためにも使用します。 - クラッチキック
- これはクラッチのないゲームでは関係の無い方法です。
クラッチを切り、アクセルを吹かしてエンジン回転数を高め、クラッチを一気につなぎます。
これにより路面と駆動輪の間に大きな加速側の駆動力差を発生させて駆動輪を滑らせます。
実車でやりすぎるとミッションを壊します。 - フェイントモーション
- 一度ハンドルを曲がる方向と反対に切り、その反動を利用しつつ曲がる方向にハンドルを切ります。
これにより車に、より大きなヨー回転しようとする力を発生させることができます。 グリップ、ドリフトを問わず使用できる技術でインにすぱっと切り込むように曲がれます。 - 慣性
- 物体には動いている方向に動きつづけようとする性質があります。これを慣性といいます。
車の進行方向を変えようとする際、車が慣性の向きに進みつづけようとする力(と駆動力)で自然に滑り出すのを慣性ドリフトといいます。
意図的に出すというよりは、高速走行時のような大きな慣性が働いているときに車が自然に滑り出すという感じです。 - タックイン
- デフ(デファレンシャルギア、差動装置)とは、コーナリングの際、コーナーに向かって内側のタイヤと外側のタイヤの転がり距離の差によって生じる駆動力差を吸収する装置のことです。
この装置は構造上「コーナーに向かって内側の駆動輪により大きく駆動力を分配する」効果を発揮してしまいます。
その結果、減速する際は、エンジンブレーキによる減速側の駆動力をコーナーに向かって内側のタイヤにより大きく分配してしまいます。
つまり、コーナーに向かって内側のタイヤに外側より強いブレーキをかけることになり、これにより車はコーナーに向かって内側を向こうとする挙動を示します。
この効果を利用して曲がる技術をタックインといい、グリップ、ドリフトを問わず使用できる技術です。
全ての駆動方式の車で使えますが、特に前輪が駆動輪である前輪駆動車において強い効果を発揮します。
ただ、LSDにより差動を制限すると効果がなくなります。LSD装着車でタックインを有効に使用したい場合、LSDの減速側は効かないようにする必要があります。
注意しなければならないのは、「駆動輪に大きな駆動力差を発生させることで車をスライドさせるきっかけ」は、駆動輪の位置によって車が回転する方向が異なるということです。
前輪駆動車の場合、駆動輪が滑ると(車の向きとしては)強いアンダーステアになり、後輪駆動車の場合、駆動輪が滑るとオーバーステアになります。
四輪駆動車の場合は、前後の駆動力配分により異なります。前輪に多く駆動力を配分すれば前輪駆動車の挙動に近づきますし、後輪に多く駆動力を配分すれば後輪駆動車の挙動に近づきます。
前輪駆動車の場合、オーバーステアの姿勢を作ることができるきっかけは、ブレーキング、サイドブレーキ、フェイントモーション、タックインであり、後輪のスライドを維持する方法はサイドブレーキぐらいしかありません。
慣性ドリフトは足回りの設定などにより車の性能をオーバーステアの方向に振れば(CR-X(EF-8)等)やりやすくなりますが、フロントヘビーな前輪駆動車では慣性で非常にアンダーがでやすくなっています。
ドリフト状態に持ち込む手数が少ない分、前輪駆動車はドリフトには向いていないことがわかると思います。
しかしながら、前輪駆動車によるドリフトは使い所を選べば有効な手段です。
これらのドリフトのきっかけは複数の併用が可能です。後輪駆動車ならフェイントモーション、ブレーキング、シフトロックを併用するといったように。