第四回 ライン取りの哲学
物体がある区間を最短時間で移動する手段を短い言葉で表現すると、「最短距離を最高速度で」となります。
もっとも、ゲーム上のコースには障害がありますし、曲がるためには減速が必要ですから、これ自体はそのまま適用できる手段ではありません。
現実に添う形でこれを変形すると、以下のようになります。
- コーナーを曲がる際の減速は最低限にする
- コーナーを抜ける速度(脱出速度)をできるだけ速くする。
- 可能な限り短い距離を移動する。
実際のコーナリングテクニックに照らし合わせると、1がアウトインアウト、2がスローインファーストアウト、3がショートカットということになるでしょう。
それでは、これらについて解説します。
アウトインアウト
まず下図をご覧ください。
一番外側がめいっぱいのアウトインアウトのライン、一番内側がインベタのライン、その間はその中間のラインです。
見ての通り、アウトインアウトはコーナーの外側を走る分、インベタのラインより走る距離は長くなります。
こういうラインを描いて走る理由は、こうした方が少ない減速で曲がることができるからです。
その理由は遠心力にあります。
遠心力 = 質量 * 速度2 / 回転半径
上の式を見れば解るように、遠心力は速度が高くなればなるほど、回転半径が小さくなればなるほど大きくなります。
遠心力に逆らって車をコーナー内側に曲げる向心力は車の性能に依り、それには限界があります。
その限界を越えた場合、車は曲がりきれません。それを避けるためには、車の遠心力を小さくする必要があり、そのためには速度をおとすか回転半径を大きくするしかないわけです。
図でいえば、一番外側のラインが一番コーナリング限界速度は高くなり、一番内側のラインのコーナリング限界速度は一番低くなります。
「回転半径を大きくすることによりコーナリング限界速度を上げる手段」、それがアウトインアウトなのです。
ですから、車の速度がコーナリング限界速度を下回っている場合、アウトインアウトのラインで走るより、より内側のラインを走った方が、走行距離を短くできる分、短い時間で走ることができます。
スローインファーストアウト
下図はスローインファーストアウトのラインを描いたものです。
図のアルファベットは第三回で述べた区間を表わすものです。
見てわかるように、減速区間とターンイン区間を長くとっています。
パーシャル区間は点としてのみ存在し、その分、立ち上がり区間と加速区間で直線的に加速できるようになっています。
(ここで重要なのは、加速アンダーを出しながらでもコーナーを脱出できるような姿勢を作ることです。コーナーの奥まで「ブレーキを残す」あるいは「減速手段としてのドリフトを用いる」などが、そのための手段となります)
減速幅は大きくなり、コーナリング中一番低い速度になるパーシャル区間での速度は、アウトインアウトの場合の速度より低くなります。
当然、コーナリングにかかる時間もアウトインアウトの場合より長くなります。
しかし、脱出速度は最大加速できる区間が長い分、アウトインアウトより高くできます。
よって、コーナーを抜けた後が長い直線なら、脱出速度が高い分、その区間で時間を稼げます。
つまり、コーナーを抜けた後で時間を稼げないのなら、スローインファーストアウトにメリットは無いということです。
操作の感覚としては「コーナーの奥で一気に向きを変えて、後は直線的に加速する」です。
スローインファーストアウトのラインは車の加速力に依存し、加速力の低い車の場合、よりアウトインアウトに近いラインをとって、減速幅を小さくした方が有利になります。
複合コーナーとショートカット
下図は複合コーナーを抜けるラインを描いたものです。
図の左側のコーナーから右側のコーナーへ抜けるわけですが、一つ目のコーナーの回転半径を小さくしアウトインインと曲がることで二つ目のコーナーの回転半径を大きく取っています。
このような曲がり方はコーナー全体の平均速度を低下させますが、脱出速度を向上させることができ、続く直線で時間を稼ぐことができます。
複合コーナーにおいては、次の次、またその次というように、先のコーナーを抜けることを意識して走ることが肝要です。「走行距離を短くし、曲率を小さくし、脱出速度を引き上げる」ラインを頭の中で描き、そのラインに添って車を走らせるように操作することがタイムの短縮につながります。
この図ではコース内ぎりぎりを走っていますが、コースの外に広いセーフティーゾーンがあり、かつコースをはみ出したことによる減速幅が低い場合、コースをはみ出しても複合コーナーを真っ直ぐ突っ切った方が早い場合もあります。(タイプSの鈴鹿サーキット等)
そういう風に「コースをはみ出してでも近道をする」ことを、ここではショートカットといいます。
- アウトインアウトは回転半径を大きくすることで「コーナリング限界速度を高める手段」であり、タイムを縮めるための鉄則ではない。
- スローインファーストアウトは、より大きな減速を伴ってでもコーナー脱出速度を高めることにより、「コーナーで損をしても続く直線区間でタイムを稼ぐ手段」であり、コーナーで損した以上に直線でタイムを稼げないと意味は無い。
- 車の速度がアウトインアウトでのコーナリング限界速度を下回っている場合、より小さい円を描くように曲がって走行距離を短縮する方がタイムは稼げる。
- ライン取りの基本は「走行距離は短く、曲率は小さく、脱出速度は高く」すること。
まとめ
コースを走るタイムというものは、車の性能とコースの状態により理論上の最短タイムが決まっており、それより短い時間で走ることはできません。
ライン取りの作業とは、その理論上の最短タイムをだすためのラインを頭の中で描くことです。
ゲーム上のコースはかなり広いものがほとんどですが、実際にラインを意識すると、その中で実際に走れる幅というものはごく狭いものです。
車の性能と自分の技術の範囲で、進入速度を重視するか、脱出速度を重視するか、最低速度を可能なかぎりひきあげるか走行距離を縮めるか。
ライン取りとは自らの思想の投影といってもいいでしょう。
重要
タイムを短縮するためのライン取りの理論は以下の三つに集約できます。
- 走行距離を短くする。
- 曲率半径を大きくする(=曲率を小さくする)ことでコーナリング限界速度を高める。
- コーナー脱出速度を高めることで直線区間でタイムを縮める。