第六回 トルクと出力の関係

アクセルでコントロールするのはトルクと回転数

エンジンの性能の捕らえ方

 トルクとは何か、出力とはなにかを簡単に述べると、トルクが「力」で、出力が「仕事」です。
 何かとエンジンの性能の目安とされる出力ですが、それ自体はトルクに回転数と比例定数をかけて求められる「仕事」の量にすぎません。
 例をあげると、同程度のトルクを発揮するエンジンの場合、8000回転までまわるが6000回転からは回転の延びが悪いエンジンと、7000回転まで一気に回るエンジンでは、後者の方が「速い」エンジンですが、前者の方が出力は高くなります。
 また、車が走る際に生じる様々な抵抗(転がり抵抗、空気抵抗等)にギヤで変換されたトルクが負けていれば、いくら最高出力の大きい車であっても、車は加速するための仕事ができず、失速してしまいます。
 エンジンの性能とは、最高出力という数字で簡単に表わせるものではなく、トルクカーブという線やレスポンスという数字で表わし難いものに出てくるものです。
 最高出力や最大トルクがスペック表示に用いられるのは、それが「見て解りやすいもの」だからなのでしょう。
 もっとも、車の走行システムとは、エンジンのトルクと回転数を「歯車の原理」で変換しているものなので、最高出力が高いということは理論上の最高速度も高いということなのですけど。

「歯車の原理」
 歯数が10の歯車と歯数が5の歯車を組合せたとします。歯数が10の歯車を10Kgの力で10回転させた場合、歯数が5の歯車は5Kgの力で20回転します。
 両者の力と回転数の積は「10*10 = 5*20 = 100」であり、等しくなります。
 つまり、歯車により力と回転数を変換することはできるが、実際にやる仕事の量は変えられないということ。
 「てこの原理」や「動滑車の原理」と同じ。

トルクと出力の関係

 ここではトルクと出力について述べます。御存知の方はとばしてください。
 単位については新しい標準である国際単位系(SI)を使用します。この単位系では、出力はkW(キロワット)、トルクはN・m(ニュートン・メートル)で表わされます。

 まずNですが、これは

1N = 1kg・m/s2

という式で表わされます。
 単位を読める人ならわかるでしょうが、これは1kgの物体を毎秒1m加速する力を意味します。
 では、これにmをかけたN・mはどんな力でしょうか。理屈を推測できれば簡単ですね。
 「回転軸から1m離れた1kgの物体を毎秒1m加速する力」です。
 もっと砕けた言い回しにすれば「回転軸を回転させようとする力」といってもいいでしょう。
 これを応用して出力について考えてみましょう。
 ある回転数の出力は

1J(ジュール) = 1N・m
1W = 1J/s

であり、回転軸から1m離れた物体が毎分n回転するときに一秒間に移動する距離Lは

L = 2*円周率*n/60(m/s)

であることから、車の出力P(kW)はトルクをT(N・m)とすると、

P = T*L/1000 = T*2*円周率*n/60000(kW)

となります。円周率を代入すると、60000/(2*3.1415927) = 9549.296(以下省略)ですから、

P = T*n/9549.3(kW)

となります。
 これで出力がトルクに回転数をかけたものに比例することがわかりますね。
 なお、上記の計算は単位を見て私が計算したものなので、間違っているかもしれません。その場合は御容赦願います。

加速性能と最高速度

 車の加速性能の目安として単位余裕駆動力というものがあり、これは次の式で表わされます。

 単位余裕駆動力 = 余裕駆動力 / 車輌総重量 = (駆動力 - 走行抵抗) / 車輌総重量

 駆動力はミッションやデフのギヤ比やタイヤの外径により変換されたトルクのこと、走行抵抗は転がり抵抗、空気抵抗、登坂抵抗いった車が移動する際に抵抗となる力の合計のこと、余裕駆動力は駆動力から走行抵抗をひいたもののことです。

 この単位余裕駆動力が大きいほど車の加速性能は良くなります。
 単純に「F = ma」ですので、力(駆動力)が大きいほど加速度は高くなると考えてもいいでしょう。
 急加速や上り坂の際にシフトダウンを行いますが、これはギヤ比でトルク(と回転数)を変換して、大きな駆動力を得るためです。

 車の最高速度は駆動力と走行抵抗により決まります。(下図参照)

駆動力と最高速度  図の縦軸(T)は駆動力(「歯車の原理」で変換されたトルク)、横軸(V)は速度(エンジンの回転数に比例)を表わし、右肩上がりの曲線は走行抵抗、AとBの曲線は二種類のエンジンの駆動力を表わします。走行抵抗が右肩上がりなのは、空気抵抗が速度の二乗に比例して増えるためです。
 エンジンの駆動力曲線と走行抵抗の曲線が交わっている部分が車の最高速度で、これ以上は走行抵抗が駆動力より大きくなるので車は加速できません。いくらアクセルを踏み込んでも無駄です。
 Aのエンジンは低回転でトルクが立ち上がりますが、高回転の延びがないので最高速度はBのエンジンに劣ります。
 Bのエンジンは高回転で最大トルクを発揮し最高速度もAのエンジンより高いですが、低回転域トルクが細いため、発進時の加速はAのエンジンに劣るでしょう。
 こうしてみると、出力はエンジンの性能を直接指すわけではないことがわかります。

最高の加速

 ここで最高の加速をする条件について考えてみましょう。
 今迄に紹介してきた理屈を総合すると以下の条件がでてきます。

  1. タイヤに最大摩擦力を発揮させること。
  2. 駆動輪を加速する方向に向けること。
  3. 加速には余裕駆動力の大きい範囲を使用する。

 1はある程度のスリップ率でタイヤが最大摩擦力を発揮することから、発進時のような高負荷時はタイヤが少し滑るくらいのトラクションをかけることで最高の加速を得られることを表わしています。
 2は説明するまでもないでしょう。
 3は余裕駆動力が駆動力から走行抵抗をひいたものであることから、大抵の場合、トルクの山の部分の回転数(最大トルクを発生する回転数の前後の回転数)を利用した方が有効に加速できることを表わしています。また、「高いギヤの余裕駆動力」が「低いギヤの余裕駆動力」を上回るまで(高回転でトルクが細るまで)は低いギヤで引っ張る方が有利であることも表わしています。

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