第一回 駆動力伝達系
エンジンからタイヤまでの力の流れ
車は当然のことながら、エンジンで発生させたトルクと回転をタイヤに伝えることで走ります。
ここではまず、エンジン出力を伝達する車のパーツについて説明します。
通常のエンジンは、ピストンの往復運動をクランク機構で回転運動に変換しています。
例外はロータリーエンジンで、元々がロータリーピストンの回転運動です。
いずれの場合も共通するのは、エンジンの発生する運動エネルギーはクランクシャフトを通じて回転運動として出力されるということ。
その回転運動はクランクシャフトに取り付けられたフライホイールとクラッチディスクの接触によりミッションに伝わり、後輪駆動車ならプロペラシャフトを通じてデファレンシャルギアへ、前輪駆動車ならミッションから直接デファレンシャルギア(デフ)へ伝わります。
デフに伝えられた回転運動は分配され、左右の駆動輪(タイヤ)にドライブシャフトを通じて伝達されます。
フライホイール
フライホイールはクランクシャフトにとりつけられる円盤です。
軽量化によりエンジンのレスポンス(応答性)を向上させることができますが、上り坂など走行抵抗が高くてエンジンのトルクが負けてしまう場合に失速しやすくなります。
よって非力な車でトップスピードを維持して走りたい場合などには、軽量なフライホイールはマイナスに働く場合があります。
しかしながらゲーム中ではそういう非力な車を扱うことは少なく、フライホイール軽量化によるレスポンス向上は加速への影響が大きいので、まっさきに行ってもいいチューンです。
また、GT3においてこのレスポンスの向上は、シフトチェンジに必要な時間を短縮する効果もあるようです。
レスポンス向上の理由
エンジンが出力する回転運動は、フライホイールとクラッチプレートの摩擦によりミッションに伝達されます。
この際、フライホイールの質量は「止まっているものは止まりつづけようとし、動いているものは動きつづけようとする」慣性の法則に従って、その回転数の変化に対する抵抗となります。
つまりフライホイールの質量が小さければ(=軽い)、それだけ慣性抵抗は小さくなり、レスポンスが向上するというわけです。
それでは、通常の重たいフライホイールにはメリットは無いのでしょうか。
重いフライホイールにメリットが無いのならメーカーはこぞって軽量なフライホイールを採用している筈です。それをしないのはフライホイールには他に重要な役割があるからです。
それは慣性力を貯えるということ。
慣性力は質量と回転数の積に比例します。
つまり、フライホイールの質量が大きければ大きいほど、同じ回転数でもより大きな慣性力を貯えることができるというわけです。
これは発進時等、大きな慣性抵抗が働く際に有効です。
特に上り坂での発進の場合等、大きな走行抵抗が発生する状況では、通常のフライホイールではなんなく発進できても、軽量フライホイールでは物理的に回転数を上げて延々と半クラッチを使わないと発進できない場合があります。
フライホイールの役割は他にもあります。
例えば、トルクのむらの吸収。
4サイクルエンジンは吸気、圧縮、燃焼(膨張)、排気の4つのサイクルで運動しています。
これは4気筒以下のエンジンにおいては、一瞬ではあってもエンジンがまったくトルクを発生しない瞬間が存在するということを意味し、エンジン出力がぎくしゃくする原因になります。
フライホイールはこのぎくしゃくを吸収する役割も負っています。
クラッチ
クラッチは、フライホイールとの摩擦材であるクラッチディスクと、クラッチディスクをフライホイールへ押しつけるためのスプリングを備えたクラッチカバーで構成されます。
通常のトランスミッションではシフトチェンジを行う際に動力の伝達を断たねばならず、その動力の伝達を断つための装置がクラッチです。
結果的に出力の伝達を行うクラッチですが、大出力のエンジンの場合、出力がクラッチが伝達できる力の容量を越えてしまい、クラッチが滑って出力を伝えきれないという状態が発生する場合があります。
そういうクラッチが滑るという状態を防ぐための、伝達できる出力の容量が大きいクラッチが強化クラッチやツインプレート、トリプルプレートのクラッチというわけです。
より強いスプリングによる圧着力の向上、摩擦材の改良、多板クラッチ化による摩擦面積の拡大などにより、伝達できる出力の容量を増やしたものがこれらのパーツです。
GT3においてはシフトチェンジにかかる時間を少なくする効果がありますが、基本的に大出力を伝達しきれない場合に用いるパーツなので、クラッチが滑らない限りこのパーツのチューンにおける優先性は低くなります。
実車においては、半クラッチの領域が狭くなり、スプリングを強化して圧着力を上げている場合はクラッチペダルも重くなるので、うまくて体力のある人向きの部品です。
トランスミッション(ミッション)
エンジンのトルクと回転数を車速にあわせて変換して出力するための装置がトランスミッション(以降、ミッション)です。
ノーマルのミッションはノーマルのエンジンにあうように設定されているので、チューンされたエンジンの場合は、その出力を活かすためにミッションのギア比を変更してやる必要があります。
チューンされたエンジンはパワーバンド(有効な出力を発揮する回転数の幅のこと)が狭いため、出力を活かすためには、各ギアのギア比を近づける必要があり、そのための部品がクロスミッションやスーパークロスミッションです。これらの近いギア比はノーマルのエンジンの場合でも加速にも有利に働きます。
ただ、ゲーム中のこれらのミッションはギア比(ほとんどが回転数を減らしてトルクを増やす比なので、減速比ともいう)が高すぎてトップスピードを抑えてしまっているので、0−400みたいな短距離の加速を競うものでしか、あまり使い道がありません。
どうせ購入するならギア比を自由に設定できるフルカスタマイズサービスのものがいいでしょう。
ゲームのセッティングにおいて1速から5速(6速や7速のものもある)まではミッションのギア比を表わし、ファイナル(最終減速比)については後述するデファレンシャルギア(デフ)のギア比です。
各ギア比の設定については別項で触れるので、ここでは解説しません。
プロペラシャフト
後輪駆動車においてのミッション・デフ間、四輪駆動車においてのセンターデフ・リアデフ間の動力伝達を行うパーツがプロペラシャフトです。
前輪駆動車はミッションとデフが一体化されているので、このパーツは存在しません。
構造としては単純な棒です。
カーボンプロペラシャフトのような軽量化によるメリットは、フライホイールの場合と同じく慣性抵抗の軽減にあります。
これによりレスポンスは向上し、車の加速能力への影響も大きいので、序盤においてお勧めのチューニングです。
デファレンシャルギア(デフ)とLSD(リミテッドスリップデフ)
駆動力を左右のタイヤの転がり距離差にあわせて、左右の駆動輪に分配する装置がデファレンシャルギア(デフ)です。(四輪駆動車の場合、前輪の左右の分配を行うフロントデフ、後輪の左右の分配を行うリアデフ、前後の分配を行うセンターデフの三つがある。)
この装置が左右のタイヤの転がり距離の差を吸収してくれるおかげで、車はスムーズにまがることができるわけです。この機能を差動といいます。
一見便利な機械ですが、この装置には欠点があります。
それは片方のタイヤが空転するとそっちの方だけに駆動力を伝達してしまうということ。
こうなるともう片方のタイヤがきちんと接地していても車は駆動力を有効に路面に伝えることができません。
こういう状況を防ぐために差動を制限する機能を備えたデフがLSDです。
車の運転においては、片輪が浮いたり、そうでなくても荷重不足で空転したり、不整地路で摩擦係数が低かったりという状況が有り得るわけで、そういう状況においてLSDは効果を発揮します。
GT3においてはイニシャル、アクセル(加速側)、デアクセル(減速側)の三つのパラメータが変更でき、イニシャルは未作動時での差動の制限、アクセル、デアクセルはそれぞれ、加速、減速側で作動したときの差動の制限を表わしています。
差動が制限されると左右の駆動輪の転がり距離差が吸収されなくなるわけで、車は曲がり難くなります。(アンダーが強くなる)また、転がり距離の差の吸収されない分タイヤが滑らなくてはならなくなり、タイトコーナーブレーキング現象が発生して走行抵抗が増します。
ただ、前輪駆動車や四輪駆動車のフロントLSDの場合は、加速側の効きを強くすることで、駆動方向に強引に車を引っ張ることができます。(実車でやるとドライブシャフトが折れたりしますが)
セッティングの方向としては、減速時に曲がりすぎたり挙動が不安定になりすぎる場合は減速側の効きを強くし、逆の場合は低くし、加速時にタイヤが空転して加速が悪かったり挙動が不安定になりすぎる場合は加速側の効きを強くし、逆の場合は低くします。
直進安定性が低い場合は、イニシャルを高くするといいでしょう。
効かせかたの見極めが難しいパーツですが、車の走行性能に与える影響は非常に大きいパーツです。